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監修・指導/金谷 節子(金谷栄養研究所 所長) 協力/栢下 淳(県立広島大学 教授)、江頭 文江(地域栄養ケアPEACH厚木 代表)
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嚥下食に最適でミラクルなトレハロース
金谷節子

2014年の私にとっての記念すべき出来事は、トレハロースとの出会いでした。トレハロースは、昆虫や植物をはじめ、多くの微生物で産生されていることが報告されています1)。微生物の中でも、古生代から今日に至る40億年の間、この地球に存在してきた古細菌にも認められている2)ことを丸田博士から伺い、それは想像を絶するミラクルな出来事だと深く実感しました。

2014年3月、私は岡山にある株式会社林原に招かれ、姫井部長を訪ねることになりました。そこで研究者の皆様からお聞きした事は驚きの連続で、トレハロースは嚥下食材として最適な素材だと思いました。それはトレハロースのもつ保湿性、澱粉老化抑制、蛋白質変性抑制、脂質変敗抑制などに注目したからに他なりません。
1.トレハロースは古生代から地球に存在している
株式会社林原の丸田和彦博士は、若干22才の時にトレハロースを工業化へと導く世界初の酵素3)を発見された、この道のパイオニアです。古生代と言えばあの「シアノバクテリア」の時代から存在することになります。地球の歴史は、氷で地球を埋め尽くした全球凍結をはじめとして、高温で焼き尽くされたり、水で覆われたりと、過酷な歴史を繰り返してきましたが、その延長線上に今日の地球が存在するのです。トレハロースを産生する微生物が、その長い歴史の中を生き伸び、未だに存在することは、何を意味するのでしょうか。おそらくそれは、冷凍耐性・熱耐性を併せ持っているということだと思います。本当にミラクルですが、実はトレハロースの持つ機能はまだまだ未知なる物なのです。おそらく近い将来、多くの事が明らかとなり、嚥下障害者への福音をもたらすであろうことを期待しています。
2.ミラクルな機能
1)嚥下食に最も重要な保水性
嚥下食では、粘膜との親水性が最も重要な条件です。嚥下食は、一般で思われているような単にドロドロべたべたしたものではありません。口腔、食道を無事に通過する為には、粘膜との保水(親水)性が不可欠です。その意味でコラーゲンを加水分解してつくられるゼラチンは、嚥下障害者にとって「神様からのプレゼント」だと思っています。そして、トレハロースはそれに匹敵する食品だと直感しました。
2)蛋白質変性抑制・脂質変敗抑制
訪問後、肉や魚でトレハロースを試してみました。すると驚くことに、調理後のドリップが少ないうえに食感も実に良く、肉は肉らしさ、魚は魚らしさを保持しつつ、嫌な臭いも消されていました。ということは、脂質の変敗も抑制しているのだろうと推測しました。
3)ご飯とトレハロース
トレハロースには澱粉老化の抑制作用、冷凍による劣化抑制も明らかにされており、近年では多くの食品にトレハロースが使用されていることが表示されているのを確認できます。菊谷氏らの研究結果によると、嚥下障害者の窒息原因となる第1位は「ご飯」だとされています。そこでトレハロースを米に加えて炊飯してみたところ、3%が最適であることが分かりました。さらに、これを冷凍保存し、その後解凍してみましたが、とても良い結果が出ました。
そこで現在、誤嚥のリスクをもつ高齢者の方々に対しては、「トレハロース3%入りの銀しゃりに卵、ナイアシンリッチな鰹節、認知症予防に有効なMCToil中鎖脂肪酸15gを加えた卵掛けご飯」を勧めています。茶碗1杯で約500kcal、タンパク質14gを摂取でき、これを朝昼晩の3回食べれば、簡単かつ安価・経済的な喜ばれる一品となります。
4)研究が進むトレハロース
丸田らによれば、トレハロースは血糖の変動が緩やかで、インスリン低分泌性の糖質であり、継続的な摂取によって耐糖能を改善することがヒト試験によって報告されています4)。また、口腔乾燥による口腔粘膜乾燥及び萎縮など組織障害軽減防止効果も報告されています5)。さらにマウスを用いた試験で、トレハロースは破骨細胞誘導を抑制し骨吸収を抑えることが、明らかにされています6, 7)。かつて生理学の大家・星猛先生が「骨密度の為には糖が重要」と言っておられたことを思い出しましたが、その点でもトレハロースは重要な役割を果たすことが期待できます。
5)様々な食材にトレハロースを添加してみよう
私は、ご飯、肉・魚・卵料理を初め、フレッシュジュースやサラダにもトレハロースを加えています。特に茶碗蒸しでは簀ができず、しっとりと食感も良く、とても良好な結果が得られ、驚きました。今では公私ともに毎日使っています。 トレハロースは工業的な生産が可能になり、誰でも安価に手に入れることができるようになりました。是非多くの皆さまに使っていただき、工夫を加えて新たな地平を拓いていただきたいと考えています。この食材が嚥下食の新たな展開を導き、嚥下障害者の幸せのツールとなることを、私は大いに期待しています。
トレハロースは丸田博士によって工業的な生産が可能になり、誰でも安価に手に入れることができるようになりました。是非多くの皆さまに使っていただき、工夫を加えて新たな地平を拓いていただきたいと考えています。 この食材が嚥下食の新たな展開を導き、嚥下障害者の幸せのツールとなることを、私は大いに期待しています。
文献
1)Elbein, A. D., The metabolism of alpha,alpha-trehalose, Adv Carbohydr Chem Biochem, 30, 227-56 (1974).
2)Maruta, K. et al., Cloning and sequencing of a cluster of genes encoding novel enzymes of trehalose biosynthesis from thermophilic archaebacterium Sulfolobus acidocaldarius, Biochim Biophys Acta, 1291, 177-81 (1996).
3)Maruta, K. et al., Formation of trehalose from maltooligosaccharides by a novel enzymatic system, Biosci Biotechnol Biochem, 59, 1829-34 (1995).
4)新井紀恵 ほか, トレハロースの『美味しさ』と『健康』に貢献する素材としての可能性, New Food Industry, 56, 1-9 (2014).
5)Mori, Y., et al., Trehalose inhibits oral dryness by protecting the cell membrane, Int J Oral Maxillofac Surg, 39, 916-21 (2010).
6)Nishizaki, Y., et al., Disaccharide-trehalose inhibits bone resorption in ovariectomized mice, Nutr Res, 20, 653-64 (2000).
7)Taya, K., et al., Trehalose inhibits inflammatory cytokine production by protecting IkappaB-alpha reduction in mouse peritoneal macrophages, Arch Oral Biol, 54, 749-56 (2009).
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