いま、なぜ嚥下食が必要なのか7.摂食・嚥下難易度レベルの判定方法

 1人ひとりの患者さんや高齢者の方々に食べやすくて誤嚥事故等の心配の少ない適切な嚥下食を提供するためには、それぞれどのレベルの嚥下食を提供すべきかの的確な判定が必要です。
理想的には、「嚥下造影検査(VF)」や「嚥下内視鏡検査(VE)」など、機器による精密な検査にもとづく判定が行われるべきであり、特に「レベル2(嚥下食2)」から「レベル0(開始期)」に相当する中等度〜重度の嚥下障がいが疑われる場合は、医師等の協力を得て必ず実施されなければなりません。
しかしながら、これらの検査を全ての対象者に行うには、専門スタッフや設備の確保などの負担が生じるため、通常は下記の「食物形態選定チャート」を活用して、嚥下障がい度のスクリーニングを行います。(図3-4参照)
その際、対象者が以下の条件を満たしていることを確認する必要があります。

  1. ① 全身状態が安定していること。
  2. ② 病状がある程度落ち着いていること。
  3. ③ 本人と家族に経口摂取したいとの意志があること。
  4. ④ 評価および訓練に協力的であること。
  5. ⑤ 挿管中でないこと。

図3-4 食物形態選定チャート

図3-4 食物形態選定チャート

 このフローチャートは、本来脳卒中による摂食・嚥下障がい患者さんを対象に開発されたものですが、上記の5つの条件を満たせば、必要に応じて脳卒中以外の患者さんや高齢者の方にも利用することができます。
ただし、あくまでも、ベッドサイドで実施した嚥下機能スクリーニングによって適切な食物形態のおおよその把握を目的とするものであり、必要に応じて適宜精密な検査を行うことが重要であるのは、言うまでもありません。

1)フローチャートにおけるスクリーニングテストの概要

① 反復唾液嚥下テスト

反復唾液嚥下テストのイラスト

 中指でのどぼとけを軽く押さえた状態のまま、30秒間唾液を飲み続け、連続して何回ゴックンと飲み込めるか(嚥下反射)を確認します。のどぼとけが中指をしっかりと乗り越えた場合のみを有効としてカウントし、3回以上であれば正常です。
逆に3回未満の場合は、嚥下機能に障がいがある可能性があると判断されるため、より精密なテストが必要です。

② 水飲みテスト(窪田式)

水飲みテスト(窪田式)のイラスト

 30mlの水(大さじ2杯程度)を平常通りのペースで飲んでもらい、その後の嚥下の回数やむせの有無などを観察して、下記の5段階のプロフィールとエピソードに照らし合わせることで判定を行います。
5秒以内で嚥下し、プロフィール①に相当する場合は正常範囲と判定します。1回でむせることなく飲み込むことができても、嚥下に5秒以上かかった場合やプロフィール②の場合は、障がいの可能性があると判定します。プロフィール③、④、⑤の場合は明らかに異常ありとします。

プロフィール
  1. ① 1回でむせることなく飲むことができる。
  2. ② 2回以上に分けるが、むせることなく飲むことができる。
  3. ③ 1回で飲むことができるが、むせることがある。
  4. ④ 2回以上に分けて飲むにもかかわらず、むせることがある。
  5. ⑤ むせることがしばしばで、全量飲むことが困難である。
エピソード
すするような飲み方、含むような飲み方、口唇からの水の流出、むせながらも無理に動作を続けようとする傾向、注意深い飲み方など。

③ 改訂水飲みテスト

 急性期の患者さんや重度の摂食・嚥下障がい者の場合、30mlの水飲みテストは誤嚥のリスクが高く危険なため、3mlの冷水を使って行う評価方法です。
このテストでむせや湿声がない場合は、30mlの水飲みテストを実施します。反対に3ccの水でも嚥下できなかったり、むせや湿声がある場合は、機器による嚥下機能の精査が必要です。

④ フード(食物)テスト

フード(食物)テストのイラスト

 高齢者用食品として厚生労働省の規格基準を満たしているレトルトパックのプリンや粥(米粒があるもの)、液状食品を専用のスプーンを使って食べてもらい、嚥下反射の有無やむせ、呼吸の変化などを観察し、評価する方法です。
評価は、口腔内への取り込み、嚥下の有無、むせの有無、呼吸の変化、湿声嗄声の有無、追加嚥下の有無、追加嚥下後の口腔内残留の有無などの項目で構成される5段階の判定基準にもとづいて1から5までのスコアをつける方法で行われます。
スコア4以上は「障がいなし」、スコア3以下は「障がいあり」と判定します。(図3-5参照)

図3-5 フード(食物)テストにおける判定基準(フローチャート)

図3-5 フード(食物)テストにおける判定基準(フローチャート)
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