いま、なぜ嚥下食が必要なのか4.リスクが大きい「きざみ食」

きざみ食の写真

 わが国では、長年にわたって「きざみ食」が高齢者のための食事の代名詞として扱われてきました。しかしながら近年、嚥下食に関する研究が進むにつれて、食形態ならびに衛生管理の観点から安全上の危険席が指摘されるようになり、嚥下食として使用することは不適切であるとの認識が定着しつつあります。

① 食形態上の危険性

 咀嚼・嚥下は、図2-2で紹介したように、口に入れた食べ物が、咽頭・食道を経て胃へ送りこまれるまでの5つの過程で構成されます。
ところが「きざみ食」の場合、硬いものと軟らかいものを一律の大きさ(1cm、5mm等)に細かくきざむため、バラバラになりやすく、準備期における口の中で食塊の形成がしにくい食形態といえます。
そのため、咽頭に残りやすく、飲み込む機能が衰えた高齢者などが、食べ物を気道に入れてしまう誤嚥を引き起こす原因になりかねません。誤嚥は、肺炎など命に関わる症状の引き金にもなることから、とても危険です。
このように、「きざみ食」は本来噛む機能を補完する食形態であり、嚥下食には不向きな食形態であることを理解し、正しく使用することが大切です。

② 食品衛生上の危険性

 「きざみ食」は、調理済の食材をまな板の上に置いて、包丁でたたきながら細かくきざむ方法で作られるのが一般的です。
その際、細かくきざまれることによって食材の表面積が大きくなるため、その分食中毒細菌が付着する危険性も拡大してしまいます。
万一、食材や包丁、まな板などに細菌が付着していたら、食材全体にまき散らすことになり、とても危険です。
また、きざみ終わった食材を定温下に放置すると、またたくまに細菌が増殖し、危険性がさらに高まります。
このように、「きざみ食」は、食材から調理器具、調理室の温湿度環境まで、万全の衛生管理のもとでの調理が不可欠な、リスクの高い食事であることを認識する必要があります。