いま、なぜ嚥下食が必要なのか6.「嚥下食ピラミッド」の概要

1)「嚥下食ピラミッド」開発の経緯

 2004年に開催された第10回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の教育講演で金谷節子が、「5段階による嚥下食」の進化・発展形として発表したのが「嚥下食ピラミッド」です。
「嚥下食ピラミッド」では、すべての食事を摂食・嚥下の難易度にもとづいて、普通食から嚥下食までの6段階のレベルに分類し、各レベルごとの食物形態の物性条件を基準化することで、品質管理を行います。
すなわち、訓練食としての嚥下食を「レベル0,1,2」に、次に安定期における嚥下食を「レベル3」、介護食(移行食)を「レベル4」、普通食を「レベル5」とする6段階に層別化したもので、それぞれ「5段階による嚥下食」の(1)開始食 (2)嚥下食Ⅰ (3)嚥下食Ⅱ (4)嚥下食Ⅲ (5)移行食とリンクしています。(図3-2参照)

図3-2 嚥下食ピラミッド

図3-2 嚥下食ピラミッド

 この「嚥下食ピラミッド」を基本に、高齢者の場合は、咀嚼能力の低下に応じて「レベル5(普通食)」から「レベル4(介護食)」、「レベル3(嚥下食)」へと咀嚼や嚥下が容易な食品に移行していきます。
逆に、脳卒中の患者では、発症後しばらくの間は経口からの食事はとらず、症状の安定を確認し、「レベル0(開始食)」から始めて「レベル1(嚥下食Ⅰ)」、「レベル2(嚥下食Ⅱ)」と嚥下が難しい食事へと移行します。
このように、喫食者に対応して、難から易、易から難の双方向の機能が成立するのです。

2)難易度レベルの基本定義

① レベル0(開始食)

均質性をもち、重力だけでスムーズに咽頭内を通過する物性を有する食品が該当します。 代表的な例としては、お茶や果汁にゼラチンを加えて作る「お茶ゼリー」、「グレープゼラチンセリー」、「りんごゼリー」などが挙げられます。
1食あたりの栄養量は100ml,100kcalを基準とします。2〜5℃で保存し、喫食時は15℃で提供します。

② レベル1(嚥下食Ⅰ)

均質性をもち、ざらつき、べたつきの少ない、ゼラチン寄せなどの食品が該当します。「ねぎとろ」、「絹ごし豆腐入り味噌汁ゼリー」、「重湯ゼリー」、「全卵蒸し(具のない茶碗蒸し)」、「プリン」、「サーモンムース」などが代表的な例です。
1食あたりの栄養量は300ml,150kcalを基準とします。

③ レベル2(嚥下食Ⅱ)

均質性をもつものの、レベル1に比べて粘性、付着性が高い、ゼラチン寄せなどの食品が該当します。代表的な例として、濃厚流動で作る「ゼリー(ゼラチン濃度1.3w/w%)」、「ヨーグルトにんじんゼリー」などがあります。1食あたりの栄養量は500ml,300kcalを基準とします。

④ レベル3(嚥下食Ⅲ)

不均質性の、ピューレを中心とする食品が該当します。生クリームや油脂などを食材に加えることで、野菜、根菜類、魚肉類などのさまざまな食材を使って作れるので、普通の食事に近く、レベル2に比較するとメニューの幅が大きく広がります。嚥下寿司などが、代表的な例です。

⑤ レベル4(介護食・移行食)

摂食・嚥下の過程の「3.口腔期」に障がいのある方に対応する食事です。パサつかず、むせにくく、なめらかな、ひと口大の大きさを目安とします。

⑥ レベル5(普通食)

摂食・嚥下障がい者は食べることが困難な、ごく一般的な食事です。

図3-3 嚥下食ピラミッドに対応した段階的食事内容

図3-3 嚥下食ピラミッドに対応した段階的食事内容